“世界一の構造物”の受注を勝ち取ることから始まったプロジェクト

プロジェクトの始まりは、2008年にさかのぼる。「超高層RC構造物」なる案件のメインとなる構造用のケーブルを受注するためのコンペを勝ち取るべく、まず営業と技術サイドで検討が始まった。この「超高層RC構造物」こそが、東京スカイツリーである。

「工事が始まる2年前なので、『スカイツリー』なんていう名前もないし、存在すらまだ誰も知らなかった頃です。守秘義務もあるので、徹底して『超高層RC構造物』という呼称で通していました。社内でさえ、知らない人間には何のことか全く分からないようになっていました」と話すのは営業担当の岡本敏治。

「まだそんな段階だったので、動いていたのは営業の岡本と私が中心でした。もちろん『例の電波塔』であることをわれわれは把握していましたので、技術提案のための製品仕様や施工方法の検討、資料作成を行っていました」と、技術担当の細居清剛が当時を振り返る。

東京のど真ん中に建つ、世界一高い電波塔の中心部を支える部分に使用するケーブル。おおむねの仕様が固まったら、次は製造担当の出番となる。

「たいてい、細居から『こういうものができないか?』という話を受けて、一緒に実験、試作を繰り返しながら形にしていくというのがいつもの流れです。そして今回も同様なのですが、話を聞いて『相変わらず無茶なことを言ってくるなあ』というのが最初の感想でしたね」と製造担当の唐津孝太郎は笑う。「製品仕様は技術の細居、納期や予算は営業の岡本から来るのですが、まあどっちからも無茶苦茶なことばかりでしたよ」(唐津)。

しかし、そういう一見無茶な注文も、お互いの経験や能力を信頼し合っているからこそできるのである。3人のタッグは紆余曲折を経て、晴れて国家的プロジェクトに関わる材料の受注が実現したのだった。

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限られた工期とコストのなかで大プロジェクトを完遂する緊張感!

神鋼鋼線が東京スカイツリーの施工で関わったのは、構造の中心となる「心柱」をサポートするケーブル、「ゲイン塔」(電波塔)をリフトアップするための工事に使われるケーブル、非常階段のリフトアップに使われるケーブル、計3種類のPC鋼材の製造だった。リフトアップケーブルは、工事のために使われる架設ケーブルである、心柱に使用されるケーブルがメインとなるケーブルであり、後者2点(リフトアップケーブル)は、メインのケーブルを受注したことによって獲得できたものだった。

いざプロジェクトが始動したわけであるが、それは3人にとって苦労の連続だった。まず、当然のことながら現場は東京なので、打ち合わせはすべて東京で行われる。「もう何回行ったかは思い出せませんが、会議だけでも数十回あったので、いろいろ通算すれば100回くらいは東京に出張しました」(細居)。

限られた時間の中で品質やコストを満足するケーブルを製品化するために、検討、試作、実験をこなすのは大変な難関だったと唐津は語った。「確認実験を終えて製造に入ると、必要なのは人手です。この案件では、初めての製造方法を導入していた上に、納期があまりに短かったため、増員を行い、且つ昼夜3交替で24時間稼働しないと間に合わない、ギリギリの状況でした」(唐津)。

現場との価格交渉や契約・請求だけでなく商品の運搬や搬入など、手配に関することも営業担当の仕事。岡本は「価格交渉も大型物件のため非常にタフな交渉でありましたが、苦労したのはケーブルの搬入手配。ケーブルには個別の番号があり、長さや着色もそれぞれで異なります。ユーザーが指定する納期、順番通りに搬入するのはかなり大変でした。特に苦労したのは、搬入した材料を保管する場所がツリーの建物中にしかなかったことです。ケーブルは長い線をぐるぐる巻いた大きなドーナツみたいな状態。しかも搬入材料は当社のものだけではありませんから、直前での納期変更も多々あり、これには手こずらされました」と言う。

「ケーブルを設置する工事で最も気を使うのは安全管理です。これまで前例のない長さのケーブルを扱うため、より安全に施工できるよう、深夜まで協議を行うなど安全には非常に気を使いました。」(細居)。

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技術・営業・製造が一体となって一つの構造物をつくり上げる素晴らしさ。

スカイツリーの案件を受注したことは、3人それぞれにとって大きなターニングポイントとなった。「製品のコストだけでなく、当社で積み重ねてきた技術力が評価されて受注にこぎつけたことは、やはり誇らしく思います」と細居は語る。国家的なプロジェクトであり、誰も経験したことのない未知の構造物の設計に関われたことは、彼の技術担当としてのプロフェッショナル人生にとって大きな財産となったようだ。「今後も大きなプロジェクトや、海外の案件にも精力的に関わり、神鋼鋼線の名を世に広げていきたい」と意欲を見せる。

岡本も「国家的な大型プロジェクトに参画して仕事を完遂できたことで大きな達成感を得ました。信頼できる同期である細居・唐津と協力して受注を勝ち取り、共に難題に挑戦できたのもよかったですね」と、3人のチームワークを称えた。

「製品の仕様決定から納入までかつてない短期間で、なおかつ失敗が許されない状況。非常にプレッシャーを感じた案件でしたが、技術・営業・製造が一体となって一つのゴールに向かえたことは素晴らしい経験となりました。また、現場での施工立会いを行うなかで、施工会社とメーカーの垣根を超え一体感を持って取り組めたことも大きな収穫でした」と唐津。今後も神鋼鋼線にしかできないオンリーワン商品を生み出していきたいという。

最後に、先輩として学生へのメッセージを述べてもらった。「次に大型プロジェクトに立ち向かうのは若い人たちです。私たちは、おそらく東京オリンピックくらいまででしょうか。その先は次世代の皆さんに託したいですね」(細居)。

「苦労した分だけ楽しみも経験できるし、自信がつく。嫌なこと、面倒なことからは逃げたいと思うでしょうが、真正面からぶつかってみると、案外道は開けるものです。失敗を恐れずに周りと協力・相談しながら精一杯取り組めばいい仕事ができますよ。」(岡本)。

「こんな素晴らしいプロジェクトに携われる環境は、ほかではなかなかないと思います。社内の各部署や協力会社などたくさんの人と共に目標に向かう面白さをぜひ味わってほしいと思います」(唐津)。

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